風も冷たくなり、もうすっかり秋めいてきましたね。本日の科学ライブショー「ユニバース」
ノーベル賞特番は、東京理科大学の亀谷和久が案内役を努め、今年のノーベル賞に
関係している分野の研究者をゲストにお招きしてお送りしました。
第1部は「ノーベル物理学賞」です。高エネルギー加速器研究機構の野尻美保子さんを
お招きして、「ヒッグス粒子発見からわかったこと、わからないこと」というタイトルでお話し
していただきました。
みなさんは、素粒子という言葉を聞いたことはありますか?例えば、空気(窒素や酸素、
二酸化炭素など)や水、木、金属、プラスチックなどありとあらゆる物質は原子で構成
されています。この原子を詳しく見ると、陽子や中性子、電子で構成されていることが
わかります。さらに陽子や中性子を詳しく見ると、実は、アップクォーク、ダウンクォークと
よばれる、素粒子「クオーク」で構成されているのです。電子もレプトンと呼ばれる
素粒子の1つになります。
物質を構成する最小の単位とよばれる素粒子には様々な種類があります。陽子や
中性子はアップクオークとダウンクオークからできていますが、電子やニュートリノと
ぶつかることで互いに入れ替わる性質を持っていて、一つのペアとみなすことが
できます。また、これ以外に4種類のクオークがありますがアップクオーク、ダウン
クオークと相互作用は同じで質量だけが異なります。素粒子同士の反応をおこす
ゲージ粒子には、質量が0の光から、陽子の100倍近い重さをもつW 粒子、Z粒子
まで様々なものが存在します。このように物質を構成する粒子やゲージ粒子にある
性質の違いを説明するためにかねてから予言されていたのがヒッグス粒子です。
量子力学という、ミクロな世界の粒子の性質を記述する理論では、粒子は波と
いう性質と粒子という性質を同時に持っています。この粒子と波の性質を表す
ものとして「場」という言葉を使います。普通の粒子は、粒子が存在するところに
だけ場が値をもちます。ヒッグス粒子も波の性質を持ち、したがって「ヒッグス場」
とも呼ばれるのですが、普通の粒子と異なり空間のどこでも同じ値をもつ「真空
期待値」の部分と、その上の揺らぎである「ヒッグス粒子」の部分が存在します。
電場や磁場なども空間に分布しているという点ではヒッグス場と同じですが、
電場や磁場は発生源があって、場所ごとに違った値をとります。しかしヒッグス場は
空間に均一に同じ値をとっています。このような性質はヒッグス場が0であるよりも
値をもっていたほうが空間のエネルギーが低いという性質があれば実現できます。
ヒッグス場の値をかえていくと、空間のエネルギーはヒッグス場の値が0の原点を
小さな山として、原点から離れるとエネルギーが一度下がり、さらに離れると
上がり始めます。このグラフをかくと、ワインの瓶の底のような形になります。
あるいはサラダボウルの中心にプリンを盛ったとイメージしてみると近いかも
しれません。
ヒッグス場が空間のどこにでも値をもっているということは、ヒッグス場は私たちが
何もないと思っている真空の空間、例えば宇宙にも存在しているということを示して
います。ヒッグス場と相互作用する粒子は、空間に何もない真空の状態でも常に
ヒッグス粒子と相互作用します。このヒッグス場が物体(物体を形作る素粒子
「クオークとレプトン」や力を伝える粒子)に干渉した結果が質量となります。
ヒッグス粒子は見つかりましたが、実はヒッグス粒子に対する理解はまだまだ
課題があるそうです。それは大きく分けると2つ。1つは、ヒッグス場の値を変えた
ときにの真空のエネルギーはエネルギーは一旦上がったあとヒッグス場の値の
すごく大きいところでまた落ちることが可能であり、この為に真空が不安定になる
可能性があるということです。もし落ちてしまった場合、真空からエネルギーが
沸いてくる不思議なことになるそうです。もう1つは、階層問題というヒッグス
粒子を遠くから観測したときと、近くから観測した時の、質量の値にある大きな
ギャップの存在です。これらを補正するために考えられている素粒子理論が
超対称理論というものです。この超対称理論を使うと長年謎とされているダーク
マターも説明できるかもしれないそうです。ダークマターの存在も含め、素粒子
にはまだまだわからないことが存在します。これからの研究が期待されるところです。
10月19日ノーベル賞特番第1部「物理学賞」
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