第二部の医学生理学賞では、中野 明彦さん(理化学研究所/東京大学)に
「ノーベル生理医学賞2013ー細胞内の交通整理を明らかに」という
タイトルでお話しいただきました。
今年のノーベル医学生理学賞は、アメリカのジェームズ・ロスマン(James
Rothman)氏とランディ・シェックマン(Randy Schekman)氏、ドイツの
トーマス・スードホフ(Thomas Suedhof)氏の3氏が受賞しました。
受賞理由は、『小胞輸送を制御する分子装置の発見』で、今日お話し
いただいた中野 明彦さんもこの分野を研究しています。
では、今回の受賞内容とはどのようなものなのでしょうか?
細胞とは生命の最小単位であり、核やゴルジ体など様々な細胞小器官から
成り立っています。それぞれの小器官は異なる役割を担っています。細胞の
生命活動の全ての設計をしているのがDNAであり、実際に働くのが
タンパク質です。核内のDNAは、転写RNAに個々の遺伝子の情報をコピー
して、リボソームへと送ります。リボソームでその遺伝子情報に基づいて
タンパク質が作られ、ミトコンドリアや小胞体、ベルオキソームといった
いくつかの細胞小器官へと送られます。この輸送経路にシグナルが存在する
ことについて、1999年にドイツのギュンター・ブローベル(Günter Blobel)氏が
明らかにしました。しかし、解明されたのは一部に過ぎず、その他の細胞
小器官であるゴルジ体やリソソームへのタンパク質の輸送経路は謎に
満ちていました。
この問題を解決したのが今回の医学生理学賞受賞の方々です。
小胞体からゴルジ体へ、そしてゴルジ体から細胞膜へ,あるいはリソソームへと
タンパク質を送る鍵は『小胞輸送』でした。小胞輸送を行うことで、タンパク質を
細胞小器官の間で運ぶ主なルートが生まれます。具体的には、出発地となる
ドナー膜の一部が切り離され、輸送小胞となります。これが目的地となる
ターゲット膜の一部と融合することでタンパク質の輸送が完了します。
タンパク質の輸送経路はこのようになっているのだそうです。いわば、これらの
研究により、私たちは細胞内における交通整理の実態を把握出来るように
なったのですね。
しかし、このメカニズムを解明しても、まだまだ謎は残っています。まず、ゴルジ
体の中におけるタンパク質の輸送のメカニズムはどのようになっているのでしょうか?
というのも、ゴルジ体はたくさんの膜でできた器官であり、内部における輸送
メカニズムは謎に包まれています。
現在、細胞小器官間のタンパク質輸送に関して多くの研究者が研究を行って
います。19世紀に主流であった光学顕微鏡、20世紀に主流であった電子
顕微鏡に対し、最先端の研究では、ライブイメージングに注目が集まって
いるそうです。蛍光タンパク質を用いることで、注目部分の細胞の活動を
詳しく確認できます。細胞の変化を、生きたままの状態で目視で観察できるって
すごいですよね。科学技術の進歩に脱帽です。この分野の国際会議もある
そうで、実際に中野さんや本賞受賞者も参加されているそうです。受賞者の
方々のお茶目なエピソードも伺うことができました。
これからも、この謎に満ちた細胞の世界について、さらなる発見と解明が
楽しみですね。
10月19日ノーベル賞特番第2部「医学生理学賞」
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