11月6日@科学技術館

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本日の科学ライブショー「ユニバース」は、伊藤哲也(国立天文台)が案内役を務め、ノーベル賞特別番組をお送りしました。

第1回目には、内田邦敏先生(静岡県立大学 食品栄養科学部・准教授)から「カプサイシンセンサーの発見と温度・痛みを感じる仕組みー唐辛子を食べるとなぜ熱く感じるのか?ー」と題してノーベル生理学・医学賞に関する話題をお話していただきました。

唐辛子はなぜ辛く感じるのでしょうか?そもそも、辛さは味なのでしょうか?辛さは味ではなく、口や喉で感じる痛みに近い感覚になります。今回のノーベル賞受賞者のお一人のDavid Julius先生は、TRPV1と呼ばれる温度センサー(受容体)を発見した研究者の方です。
人間の体内では、生体恒常性(ホメオスタシス)と呼ばれる体内環境を一定に保つ機能が備わっています。外部環境の変化が脳に伝わることで、体内機能の調整が行われます。今回は、この外部の温度変化を感知することができるセンサーの発見がノーベル賞受賞につながりました。

人間が外部の温度や痛みを感じる仕組みは、感覚神経で感知した温度や痛みを電気信号として脊髄、視床を通過して、大脳に伝えることで認識できます。感覚神経には温度や痛み感知して電気信号に変えるセンサーがあるのではないか?と考えられますが、その実体は不明でした。
まずDavid Julius先生らは、唐辛子に含まれるカプサイシンという辛みを感じる物質のセンサーを探索しました。今回受賞対象となった論文では、細胞膜の表面にある、あるセンサーがカプサイシンに反応し、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンが細胞内に入ることで電気信号を起こすことがわかりました。このカプサイシンセンサーは現在ではTRPV1と呼ばれています。
次にカプサイシンの辛さは、熱さの感覚に近いため、温度センサーとしても働くのではないかと考えられました。その予想も実験で証明され、生体内での温度センサーとしても働くことがわかりました。TRPV1は43℃以上で反応しますが、他にも炎症がおきた部分に生じる酸によっても活性化したり、体内で生成され痛みを起こすプロスタグランジンという物質によって反応する温度が下がり体温でも反応するのです。

また、カプサイシンセンサーのように熱さに反応するセンサーもあれば、ミントのメントールなどに反応する冷感センサーも発見されました。このような生体温度のセンサーは多く発見され、TRPチャネルだけでも11種類が温度センサーとして機能しうることが確認されています。それぞれのセンサーには、TRPV1のようにカプサイシンの辛さや痛みを感じるセンサーもあれば、皮膚機能や血糖値調節機能などを持っているものもあります。

カプサイシンには、抗肥満作用、血行改善、便秘改善などの作用があることがわかっており、様々なものに利用されています。一例は、海外で実用化されている、塗り薬のカプサイシンクリームです。これは、繰り返し塗ることで、次第に痛みを感じにくくなる脱感作を起こします。また、TRPV1阻害薬は鎮痛薬としての応用が期待されています。

最後に、唐辛子の辛さを抑えるためには、何を飲むのが一番効果的でしょうか?カプサイシンセンサーは熱センサーでもあるため、冷たいものを飲むとセンサーの活性が弱くなります。また、カプサイシンは脂溶性のため、脂肪分を多く含むものを飲むとカプサイシンを洗い流しやすくなります。そのため、唐辛子のような辛い物を食べた後には、冷たい牛乳を飲むと辛さを抑えるのに効果的です。

第2回には、川合秀明先生(気象庁気象研究所・主任研究官)から「気候モデルで地球温暖化を予測する!」と題してノーベル物理学賞に関する話題をお話していただきました。

今回のノーベル物理学賞では、日本出身の真鍋淑郎さんが受賞されています。真鍋さんは、地球温暖化の仕組みや気候シミュレーションのモデルを構築した方です。

そもそも地球温暖化の仕組みは、どのようになっているでしょうか地球に空気が全くなかったら、地球の温度は-19℃になってしまいます。大気が地球を覆っていることで、地球から放出される赤外線の一部を地球にとどめます。この効果を温室効果といいます。この温室効果のため、地球はの温度を15℃に保つことができています。また、二酸化炭素も温室効果を持っており、二酸化炭素が増えることで、地球はさらに温かくなります。

さて、気候モデルとはどのようなものでしょうか?地球の大気を1辺100km程度の格子(立方体)で網目状に区切ったモデルを作り、その格子一つ一つの中の風速や気温、水蒸気量などの変化をスーパーコンピューターで計算することで気候の予測を行っています。この格子は海の上か陸の上か、森であれば木々の種類によって水蒸気が出てくる量が変わるため、その種類など細かいところまでを設定してシミュレーションし予測を行っています。真鍋さんは、世界で初めて、海と大気を合わせて地球規模の気候シミュレーションを行ったのも特徴です。格子内の小さな積雲の基本的な計算式だけでも、かなり複雑な計算式が4つ必要になります。太陽からの光の入射や雲でのその反射、降った雨が川に流れるものや地面にしみこむ分があることなど、すべての現象を表すための式の数は、合計で数千以上になります。
さらに、気候モデルは格子網になっているため、約800万個の格子の計算をします。時間は30分ごとに計算していきます。この膨大な計算を積み重ね、将来の気候変動を予測していくのです。このようなシミュレーションのもとになっている法則には、以下のようなものが含まれます。
・物体に力を与えると速くなる(運動量保存)
・エネルギーを与えるとその分のエネルギー量が増える(エネルギー保存)
・空気や水は勝手に増えない(質量保存)
・空気の密度と温度と圧力の関係(気体の状態方程式)
・物体に重力がはたらく
・地球が1日1回転する
さらに、1辺100km程度の格子の中で、雲の量など決める必要があります。普通に晴れているとき空に浮かんでいる雲の大きさは100kmよりずっと小さいです。そういう場合にモデルの中でどのくらいの雲を作るのがいいのかを決めるのも研究者の腕の見せ所です。以上の法則や気候モデルを使用した地球温暖化予測はどのようになっているでしょう。計算結果を見ると、温度上昇の幅は北極付近が極端に大きくなっています。通常多く光を反射している北極の氷が解けて水となり、海水が太陽が光を吸収することで、より大きく温度が上昇すると予測されるのです。
一週間の天気が外れるのに、100年先の地球の予測ができるのかとよく質問されます。100年後のある1日の天気を予測することは不可能ですが、100年後の平均的な地球の状況(平均温度や平均雨量など)を予測することは可能です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による温暖化予測は、世界の50以上もの気候モデルの結果を使用しています。真鍋さんは、第1次報告書の執筆者の一人でした。30年前の第1次報告書では、温室効果ガスは気候変化を生じる『恐れがある』としていましたが、今年発表されたの第6次報告書では、『疑う余地がない』と記されています。ここ150年の間に、温室効果ガスの濃度は急増しており、地球の急激な温度上昇に大きく影響を与えていると考えられます。二酸化炭素量を5パターンで、100年後の予測をしたとき、削減努力をしなかった場合は気温が最大で4℃以上も上昇します。二酸化炭素量を2050年段階でマイナスにすることで、ようやく気温の上昇を1.5℃に抑えられることもわかりました。4℃の気温上昇という数字は地球にどのような影響をもたらすのでしょうか。北極の夏の氷の面積は数十年後にはすべてなくなり、海面の水位は1m上昇するとされています。二酸化炭素の削減努力をしなかった場合、西暦2300年に海面の水位は7m程度も上昇する可能性が示されています。

科学ライブショー「ユニバース」では毎週様々なゲストをお呼びして科学の話題をお送りしています。
ぜひ科学技術館4階シンラドームへお越しください。

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