ノーベル 医学・生理学賞特別講演@科学技術館

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本日は京都大学の山中教授のノーベル賞受賞を記念し、ノーベル
医学・生理学賞特別講演を行いました。「運命にさからう僕たちの
細胞」と題しまして、林崎良英先生(理化学研究所)をお迎えし、
案内役を伊藤哲也(国立天文台)が務めました。講演は二つのパートに
分けて、1つ目はiPS細胞の必要性、2つ目はiPS細胞をどのように
作るかについてお話ししていただきました。
iPS細胞(人工多機能性幹細胞)とは多機能性という言葉が示す
ように、いろいろな働きをする多様な種類の細胞になる(分化する)
能力を持っている細胞のことです。従来、病気で臓器移植の必要性が
あるとき、他人の臓器を移植しました。この方法には、他人の臓器を
体が受け入れず、その臓器を攻撃するという拒絶反応を伴うことが
あります。そこで、交換が必要な臓器をその人自身の細胞を使って
作れないかという考えが生まれます。人間の体を構成する細胞は
最初はひとつ(受精卵)で、それが分裂し成長していくにつれて
200種類以上に分化します。いったん分化してしまうと自然界では
他の体の部分を構成する別の種類の細胞になることはできません。
しかし、最初はひとつの細胞(受精卵)であったことを振り返れば、
この細胞は様々な種類の細胞になりうることを意味します。これが
「万能細胞」です。私たちの体を構成する細胞はもうすでに分化して
しまっているので、私たちの体にはこの「万能細胞」は存在しません。
山中教授はここで「すでに分化してしまった人間の体の細胞から万能
細胞ができないか?」と考えました。
次にiPS細胞をどのように作るのか、ご紹介いただきました。ある機能を
持った細胞を作るときに働く遺伝子はDNAの中に点在します。例えば、
心筋細胞をつくる際には細胞の中のDNAの中でいくつかの遺伝子が組み
合わさって働き、また脳の神経細胞を作る際には異なったいくつかの
遺伝子が組み合わさって働きます。遺伝子のうち、「かぎ遺伝子」と
呼ばれる部分が働くと、点在しているほかの遺伝子が一斉に働き始め、
目的の機能をもった細胞ができあがります。かぎ遺伝子は心筋細胞を
つくるためのもの、神経細胞を作るためのものなど様々あります。
これまでわかっていたかぎ遺伝子のことを踏まえ、山中教授は万能細胞の
かぎ遺伝子も存在するのではないか?と考えたのです。そして、分化後の
細胞でも万能細胞のかぎ遺伝子が働き出せば、万能細胞ができるのでは
ないのかと発想したのです。そこで万能細胞のかぎ遺伝子を探す研究が
始まりました。林崎先生が作っていた各種細胞の「かぎ遺伝子」データ
ベースを元に、万能細胞でしか働いてないDNAの遺伝子部分を探し、まず
最初はこれらを一つずつ分化後の細胞に入れて変化を調べました。この
段階では万能細胞はできませんでした。しかし、いくつもの「かぎ遺伝子」を
同時に分化後の細胞で働かせることで、困難の末に人工的な万能細胞
(iPS細胞)をつくることに成功しました。iPS細胞を使用する利点としては、
前述したように、臓器移植の際に拒絶反応を起こさないことが挙げられます。
それ以外にも期待される医療技術としては、病気の人からiPS細胞をつくり
新薬がその病気に効き目があるのか調べたり、特定の細胞で薬になる物質の
毒性を調べたりすることが挙げられます。
しかしまた、iPS細胞の課題は、まだねらい通りの細胞を作れる確率が低い
ことや、分化させた細胞がガン化してしまうことなどがあるそうです。今後
研究が進むことでiPS細胞によって多くの人を救うことができるとよいですね。