12月1日@科学技術館(ノーベル賞特番)

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生理医学賞

物理学賞

最初の講演ではノーベル生理学・医学賞についての講演でした。
自然科学研究機構の小泉周先生に、「免疫の働きでガンを治療する『オプジーボ』開発に至る道」というタイトルでお話ししていただきました。
ヒトの免疫システムは非自己を認識して攻撃し、自己を守るという働きです。
ガン細胞の中には、PD-L1と呼ばれる分子を表面に出しているものがあります。これがT細胞の表面のPD-1分子とかみ合うことで、T細胞が免疫としてガン細胞を攻撃するのを抑えてしまいます。
ガン細胞がPD-L1を持つことで、免疫システムはこのガン細胞を、非自己でありながら自己であると誤認してしまうのです。
このPD-L1のように自己である判断に使われる分子を免疫チェックポイントと呼び、PD-L1だけでなく多くの種類の分子が見つかっています。
オプジーボはPD-1に対して抗PD-1抗体を結合させ、PD-L1には抗PD-L1抗体を結合させることで、PD-1とPD-L1が直接つくことを避ける薬です。
このことで、T細胞は活動を抑制されることなく、免疫として働いてガン細胞を攻撃することができます。
このような方法でガンを治療できるというのは画期的な発見でした。
しかし、オプジーボは、非自己とみなされるタイプのガン細胞に働くため、自己とそっくりであるタイプのガン細胞を持つ種類のガンには使用できないそうです。適用拡大についてはまだ研究が進められているところです。
また、オプジーボにより、元からの自己の細胞への攻撃が起きて副作用が出ることもあります。
新しい仕組みのガンの治療薬ではありますが、これらに注意して使っていく必要があります。

二番目はノーベル物理学賞についての講演でした。
今年のノーベル物理学賞は光ピンセットと超短パルス光の増幅という2種類の業績に贈られることになっています。
今回の講演会では超短パルスレーザーの研究をされている理化学研究所の緑川克美先生にお越しいただき、「超短パルス高強度レーザーに画期的進展をもたらしたチャープパルス増幅」というタイトルでお話していただきました。
私たちの身の回りではレーザーポインタやバーコードリーダーくらいでしか目にしないレーザー光ですが、実は産業や医療などさまざまな分野で高強度レーザー光が活用されています。
こうした高強度レーザー光では瞬間的に光を出すことで得ています。
出せるエネルギーが決まっているなら、1秒間連続的に光を出すよりも、0.5秒は光らず残りの0.5秒で2倍の光を出したほうが強い光を得ることができるでしょう。
さらに時間を短くして0.0000000000001秒だけ光るようにすれば、ずっと強い光が得られることになりこのようなレーザーはパルスレーザーと呼ばれます。
このパルスレーザーをさらに増幅させることを可能にした画期的技術が、今回ノーベル物理学賞を受賞したチャープパルス増幅です。
かつて、チャープパルス増幅が発明される以前は体育館一杯使うほど巨大だった高出力レーザーが、チャープパルス増幅を活用することで卓上で使用できるほどになり、その結果、レーザーによる微細加工やレーザーによる医療用メスなど様々な活用がされることになったのです。

三番目はノーベル化学賞に関する講演でした。
千葉大学の梅野太輔先生にお越しいただき、「たんぱく質を試験管内で「進化」させる?」というタイトルでお話ししていただきました。
たんぱく質は20種類あるアミノ酸が多数連結されたもので、体内の様々な役割を担っています。
こうしたたんぱく質の構造を変えることで、私たちに有用な性質を持たせることができますが、その構造が複雑であればあるほど、思ったとおりの形を作るのは難しい状況にあります。
一方、生物の中では遺伝子を使って常に沢山のたんぱく質が生産されています。
こうしたたんぱく質は常に同じとは限らず、ときどき違った形のもの:たとえば私たちに有用なものなども含まれていますが、通常は消えてしまいます。
そんな様々なたんぱく質の中から、私たちに有用なたんぱく質を選び出して増やすため、微生物の遺伝情報をランダムに変化させながら進化させ、目的のたんぱく質を得るようにする方法を開発したのが今回のノーベル賞受賞者たちです。
今回のお話は人類が有史前から行ってきた育種の話から始まり、それを分子に応用してたんぱく質を進化させる話、酵素を進化させ目的の化学反応を起こさせるようにする手法開発の話などを、梅野先生が受賞者であるアーノルド先生から直接聞いた話なども交え話してくださいました。
遺伝子の情報をプログラムすることで目的の物質を作り出すような、これまでの化学とはまた異なった化学を目指しているとのことで、今後の発展が楽しみです。

四番目は経済学賞に関する講演でした。
東京理科大学の森俊介先生にお越しいただき、「古典的経済モデルの2つの拡張による世界的問題への接近~Nordhausの研究を中心に」と題してお話しいただきました。
今年の受賞者はポール・ローマ―先生とウィリアム・ノードハウス先生の2人です。
ローマー先生の研究は”なぜ経済成長率は各国間で大きく異なるか”というもので、経済学において内生的経済成長論による貢献をされました。
ノードハウス先生の研究は”地球の気候変動は経済学にどう影響するか”というものです。
この研究は、経済活動・炭素循環・気候変動を統合的に扱うことができて、なおかつ誰でも動かすことができる地球温暖化統合評価モデルを開発し、経済学のみならず地球温暖化問題にも貢献しました。
2つの研究は貢献先や内容は全く異なるもののように見えますが、実は方法論とルーツは近いものがあるそうです。

今回はノーベル賞特別番組をお送りしましたが、普段の科学ライブショー「ユニバース」でも毎回様々なゲストをお招きして科学の話題をお届けしています。
ぜひ科学技術館4階シンラドームへお越しください。

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